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INGUINAL HERNIAそけいヘルニア(脱腸)について

ヘルニアの語源は、ラテン語で「飛び出す」という意味です。
鼠径ヘルニアは、太もものつけねから身体の中の小腸などの組織が出てくる病気です。同じように、おへそから下腹の中の組織が出てくる病気を「へそヘルニア」(いわゆる、でべそ)、腹部の手術等の傷の部分が弱くなって出てくる病気を「腹壁瘢痕ヘルニア」といいます。

鼠径ヘルニアの3つのタイプと原因

鼠径ヘルニアは、お腹の中の組織が出てくる場所(穴)の違いで、3つのタイプに分かれます。

01

外そけいヘルニア

一番多い/男性に多い

鼠径管のトンネルの隙間から出てくるタイプが鼠径ヘルニアで一番多い「外鼠径ヘルニア」です。

外そけいヘルニアの原因

cause

そけい部(鼠径部)には、お腹と外をつなぐ筒状の管(そけい管)があり、男性では睾丸へ行く血管や精管(精子を運ぶ管)が、女性では子宮を支える靱帯が通っています。年をとってきて筋膜が衰えてくると、鼠径管の入り口が緩んできます。
お腹に力を入れた時などに筋膜が緩んで出来た入り口の隙間から腹膜が出てくるようになり、次第に袋状(ヘルニア嚢(のう)といいます)に伸びてそけい管内を通り脱出します。いったんできた袋はなくならず、お腹に力を入れるとヘルニアのうの中に腸など、お腹の中の組織が出てくるようになります。

02

内そけいヘルニア

高齢者に多い/男性に多い

鼠径管を通らず、筋肉層の切れ目から出てくるタイプが「内鼠径ヘルニア」で高齢者に多くみられます。

内そけいヘルニアの原因

cause

年をとってきて筋肉が衰えてくると、ここを直接押し上げるようにして腹膜がそこから袋状に伸び、途中からそけい管内に脱出します。

03

大たいそけいヘルニア

比較的少ない/女性に多い/
かんとんになる可能性が高い

鼠径管より少し足寄りにある、大たい管と呼ばれるトンネルから出てくるタイプが「大腿ヘルニア」で、中年以降の女性に多くみられます。大たいヘルニアの発生率は少ないですが、かんとんになる可能性が高いといわれています。

嵌頓(かんとん)は、今までであれば横になったり、軽く押すと元に戻っていた腸が、飛び出した隙間にハマったまま、戻れなくなる状態です。戻れなくなった腸は、どんどんむくみ、締め付けられ、血のめぐりが悪くなることで傷んでいきます。 また、多くの場合は我慢できないほどの痛みを伴います。

大たいそけいヘルニアの原因

cause

そけい部の下、大腿(だいたい)部の筋肉、筋膜が弱くなって膨らみが発生することが原因とされています。

そけいヘルニア(脱腸)になりやすい人

そけいヘルニアになりやすい人の特徴

feature

40代以上の男性

乳幼児の場合はほとんど先天的なものですが、成人の場合は加齢により身体の組織が弱くなることが原因で、特に40代以上の男性に多く起こる傾向があります。乳幼児でも中高年でも鼠径ヘルニア患者の80%以上が男性ですが、これは、 鼠径管のサイズが女性は男性より小さく、比較的腸が脱出しにくいためと考えられています。

製造業や立ち仕事に従事する方
(腹部に力が入ることが多い方も要注意)

40代以上では、鼠径ヘルニアの発生に職業が関係していることが指摘されており、腹圧のかかる製造業や立ち仕事に従事する人に多く見られます。便秘症の人、肥満の人、前立腺肥大の人、咳をよくする人、妊婦も要注意です。

米国では鼠径ヘルニアで受診する人が年間80万人もいるといわれ、専門の外科医がいるほど一般的な病気です。日本では年間14万人位が手術治療を受けています。
多忙のため我慢していたり、「恥ずかしい病気」のイメージがいまだにあって、受診を渋っている潜在的な患者様もかなり多いと推定されます。

術後合併症

短期合併症(術後すぐから3ヶ月以内程度)

頻度(当院のデータによる)数%のもの

皮下出血

手術後の傷周囲などに、ある程度の出血があることがあります。出血量によって傷周辺の皮膚の色の変化として現れる場合(紫色から褐色)と、血腫(血が貯まって腫瘤としてふれる)となる場合があります。量によっては針を刺し血液を吸引することもありますが、多くはそのままで自然に吸収され吸収されるため、経過観察とします。

漿液腫

主に、手術後の傷の下に液体が貯まることがあります。血液とは違い、一般には黄色透明の液体が貯まりますが、これも自然吸収されることがほとんどです。 (頻度1%またはそれ以下)

創感染

手術の傷が化膿する場合ですが、消毒処置で治癒します。

創離開

手術の縫い閉じた傷が開く場合です。ごく稀ですが、これも消毒処置を行うことでほとんど治癒します。

再発

従来法で手術されていた頃は、術後ある程度の時間を経過した後で再発する症例がほとんどでしたが、meshを用いた術式では短期に起きることがほとんどです。
ただし、技術的な問題以外もあり、全てがいわゆる”再発”と言ってよいかどうかは、今後の問題と考えます。ヘルニアの専門施設で頻度は1%から数%との報告があり、従来法ほどは多くありませんが、治療法は再手術となります。 再手術は、最初の手術の術式がはっきりしていないと困難な場合があり、専門のDoctorに任せた方が賢明と考えます。

神経損傷

鼡径部には三種類の神経があり、手術的に損傷した場合、長期間にわたり鼡径部に痛みが続く場合があります。meshを用いた術式でも理論上は差が出ると考えられます。当院で主に行っているKugel法は、この頻度が低いと考えられますが、大規模な検討が行われてはおらず頻度ははっきりしません。治療は対処療法(鎮痛剤の内服、神経ブロックなど)で経過観察を行いますが、これでも十分でない場合は手術治療が行われることもあります。

長期合併症(術後3ヶ月以降)

頻度(当院のデータによる)数%のもの

神経損傷

術後長期経過後に発症する場合もあります。

対側発症

当院院長の大学でのデータでは、初発片側鼠径ヘルニアをmeshを用いた治療を行った後約3%にもう一側の鼠径ヘルニアの発症がありました。手術治療に直接原因はないと考えますが、従来法に比較して早く発症する場合が多く最初の手術前診断が重要と考えています。
参考文献:今津浩喜ほか:成人鼠径ヘルニア術後対側発症症例の検討.手術58(7):1189-1191,2004